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医療事故発生頻度

理事長 土谷晋一郎

「医療安全は医療政策の最優先課題である。」と先日、厚生労働省岩尾医政局長が、第16回医療安全対策検討会議の冒頭、発言しておられました。厚労省は2001年を医療安全推進元年とし、この年から医療安全に積極的に取り組むことを強く働きかけており、国民へは、医療への関心を推進することを目的として「医療安全週間」を設けています。2003年は、11月24日(日)から11月30日(土)までの一週間でした。今まで厚労省は、2002年10月より、全ての病院及び有床診療所に、1.安全管理指針の整備、2.安全管理委員会の開催、3.安全管理研修の実施、4.院内における事故報告等の医療の安全確保を目的とした改善方策の実施、を制度化するとともに、これに加え、2003年4月より特定機能病院、臨床研修病院に1.安全管理者の設置、2.安全管理部門の設置、3.患者相談体制の確保、を制度化してきました。医療機関においては、事故から教訓を学ぶべく、院内における事故事例やヒヤリ・ハット事例を収集・分析し、その問題点を改善することにより、同様な事故の発生を防止するための取り組みが進められています。

さらに、本年8月21日、「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」第一回運営検討委員会が開催され、日本国において医療事故の発生頻度の調査がスタートしました。医療事故の特性から、誰もが事故か否かを同じ基準で判断できる包括的かつ厳密な共通の基準を定義することは困難です。そのため、医療現場で個々の事例について、それぞれの医療機関が事故か否かを判断して報告することで頻度を把握したのでは、得られたデータの信頼性に問題が生じる可能性が高くなってしまいます。そこで、諸外国では、訓練された特定の専門家が診療録等を抽出・分析する調査で、事故の発生率等を算出しています。世界で初めて、医療事故実態の系統的調査研究を行なったのは、1984年ハーバード大学医学部でした。ニューヨーク地域のランダムサンプルカルテレビューを行ない、30,121症例で、有害事象3.70%、死亡率0.50%、予防可能性69.60%と報告しました。医療事故実態調査の金字塔的研究で、その後の調査はこの研究手法が原型となっています。このグループは後に方法論を改善し、1992年にはブレナン教授が中心となってユタ・コロラドで同様の研究を行ない、14,700症例で、有害事象3.23%、死亡率0.21%、予防可能性55.50%と報告しました。これらの研究は当初訴訟可能性の検討を主眼としており、オーストラリアグループは、実際の事故発生頻度より低く見積もられている可能性があると指摘しています。オーストラリアでウィルソン教授が中心となって1992年に行なった調査では、14,655症例で、有害事象16.6%、死亡率0.81%、予防可能性51.2%でした。結果が米国よりも悪かったので、ウィルソン教授は、マスメディアならびに医療界から様々な圧力を蒙ったとのことです。

その後、ニュージーランド、イギリス、デンマーク、フランスでも同様の調査が行われました。平均すると、有害事象10%前後、死亡率1%位、予防可能性50%位となっています。有害事象の発生頻度の多さに衝撃を感じますが、そのうち50%が予防可能であり、我々が、真摯に医療安全確保に取り組めば、有害事象を半減できるというデータとなっています。カナダ、シンガポールでは、現在パイロット調査が進行中で、近日中に本調査に着手する予定になっているとのことです。

日本国においても、医療事故の全国的発生頻度に関する研究「予備調査」が、全国の10カ所程度の病院で2003年11月より開始されました。調査研究ワーキンググループは、8月に米国ユタグループから、10月にはオーストラリアグループから、現地で情報収集を行なっております。今回の予備調査では、1施設ごとに2002年4月〜2003年3月に退院した患者(精神科を除く)の入院診療録より100冊を無作為に抽出し、調査研究ワーキンググループ医院の看護師(2名程度)が当該症例の入院診療録、外来診療録、ならびに医療事故報告書、ヒヤリハット報告を閲覧し、評価シート1,2に記入し、この評価シート1,2を参考に調査研究ワーキンググループ委員の医師が、有害事象の有無ならびに予防可能性について判断するという計画になっております。情報なくしては対策無く、すなわち、現状評価なくしては改善目標を設定できません。現状を正確に把握し、最も頻度の高い原因を突き止め、向上と予防において優先的に対策を組まなければなりません。