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平和の門

理事長 土谷晋一郎

被爆60周年の平成17年7月30日、平和記念公園南側の平和大通り緑地帯に「平和の門」が完成しました。平和大通りの新しいシンボルです。土谷総合病院に隣接して、高さ9メートル、幅2.6メートル、奥行き1.6メートルのガラス製の10基の門が、75メートルにわたって、立ち並びました。門とその足元の敷石には、世界49カ国の言語で「平和」の文字が刻まれています。この門は、フランスの芸術家クララ・アルテール氏と建築家ジャン=ミッシェル・ヴィルモット氏が、被爆60周年を機に製作し、市に寄贈しました。「平和の門」は、歴史を越え、未来に向かって開かれた記憶と希望の「かけはし」を表現しています。両氏は、世界平和を祈念して世界の都市に平和のモニュメントを設置するプロジェクトを手がけ、これまでに、フランスのパリ市で「平和の壁」を、ロシアのサンクトペテルブルグ市で「平和の塔」を制作しています。

10基の門は、平和大通りを挟んで向かい合う平和記念資料館・西館の10本の柱と平行に、同じ間隔で75メートルにわたり配置されています。10基としたのは、イタリアの詩人ダンテ作「神曲」に出てくる9つの地獄に、人類が作り出した新しい地獄:被爆を加えたためであります。表面には世界18種類の文字と49ヶ国の言語で「平和」の文字が刻まれ、内側のライトが点灯されると、光の中に文字が浮かび上がります。

「神曲」は、13〜14世紀イタリアの詩人・政治家、ダンテ・アリギエーリの代表作です。地獄篇・煉獄篇・天国篇の三部から成る、イタリア文学最大の古典で、世界文学史上貴重な作品です。人生における道徳的原則を明らかにすることが、「神曲」を執筆した目的であると記されています。「神曲」は、インフェルノ(地獄篇)・プルガトリオ(煉獄篇)・パラディソ(天国篇)の三部から成り、各篇はそれぞれ34歌、33歌、33歌の計100歌から構成されています。このうち地獄篇の最初の第一歌は、これから歌う三界全体の構想をあらわした、いわば総序となっており、各篇は3の倍数である33歌から構成されています。地獄界の門には、「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と銘されています。この地獄の門を抜けると、地獄の前庭に、罪も誉もなく人生を無為に生きた者が、地獄の中に入ることも許されず留め置かれています。その先にはアケローン川が流れており、冥府の渡し守カロンがいます。地獄界は、九つの地獄(第一圏〜第九圏)で構成されています。第一圏、辺獄(リンボ):洗礼を受けなかった者が、呵責こそないが希望もないまま永遠に時を過ごす。第二圏、愛欲者の地獄:肉欲に溺れた者が、荒れ狂う暴風に吹き流される。第三圏、貧食者の地獄:大食の罪を犯した者が、ケルベロスに引き裂かれて泥濘にのたうち回る。第四圏、貧欲者の地獄:吝嗇と浪費の悪徳を積んだ者が、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る。第五圏、憤怒者の地獄:怒りに我を忘れた者が、血の色をしたスティージュの沼で互いに責め苛む。第六圏、異端者の地獄:あらゆる宗派の異端の教主と門徒が、火焔の墓孔に葬られている。第七圏、暴力者の地獄:他者に対して暴力をふるった者が、暴力の種類に応じて三つの環に振り分けられる。第一の環(隣人に対する暴力:隣人の身体、財産を損なった者が、煮えたぎる血の河フレジェトンタに漬けられる)。第二の環(自己に対する暴力:自殺者の森、自ら命を絶った者が、奇怪な樹木と化しアルピエに葉を啄ばまれる)。第三の環(神と自然と技術に対する暴力:神および自然の業を蔑んだ者・男色者に、火の雨が降りかかる)。第八圏、悪意者の地獄:悪意を以て罪を犯した者が、それぞれ十の「マーレボルジェ」(悪の嚢)に振り分けられる。第一の嚢(女衒:婦女を誘拐して売った者が、角ある悪鬼から鞭打たれる)。第二の嚢(阿諛者:阿諛追従の過ぎた者が、糞尿の海に漬けられる)。第三の嚢(沽聖者:聖物や聖職を売買し、神聖を金で汚した者(シモニア)が、岩孔に入れられて焔に包まれる)。第四の嚢(魔術師:占や邪法による呪術を行った者が、首を反対向きにねじ曲げられて背中に涙を流す)。第五の嚢(汚職者:職権を悪用して利益を得た汚吏が、煮えたぎる瀝青に漬けられ、悪鬼から鉤手で責められる)。第六の嚢(偽善者:偽善をなした者が、外面だけ美しい金張りの鉛の外套に身を包み、ひたすら歩く)。第七の嚢(盗賊:盗みを働いた者が、蛇に噛まれて燃え上がり灰となるが、再びもとの姿にかえる)。第八の嚢(謀略者:権謀術数をもって他者を欺いた者が、わが身を火焔に包まれて苦悶する)。第九の嚢(離間者:不和・分裂の種を蒔いた者が、体を裂き切られる)。第十の嚢(詐欺師:錬金術など様々な偽造や虚偽を行った者が、悪疫にかかって苦しむ)。第九圏、裏切者の地獄:「コキュートス」(嘆きの川)と呼ばれる氷地獄。ここでは、同心の四円に区切られ、最も重い罪、裏切を行った者が永遠に氷漬けとなっている。裏切者は首まで氷に漬かり、涙も凍る寒さに歯を鳴らす。第一の円(カイーナ:肉親に対する裏切者、旧約聖書の『創世記』で弟アベルを殺したカインに由来する)。第二の円(アンテノーラ:祖国に対する裏切者、トロイア戦争でトロイアを裏切ったとされるアンテノールに由来する)。第三の円(トロメーア:客人に対する裏切者、旧約聖書外典『マカバイ記』に登場する裏切者トロメオに由来する)。第四の円(ジュデッカ:主人に対する裏切者、イエス・キリストを裏切ったイスカリオテのユダに由来する)。

どの地獄もおそろしいものです。その一つに人類が作り出した被爆が加えられました。あらためて、被爆の惨状の恐ろしさに身震いし、人類の罪深さを感じます。