土谷総合病院

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診療科・各部門

Introduction of Department

先天性心疾患

正常心

心臓は基本的に4つの心腔からなり、静脈が流入する心房と動脈が起始する心室があります。左右の心房、心室の間には隔壁として心房中隔と心室中隔があります。心臓はいわゆるポンプとして全身に血液を送り出す役割をはたしています。 全身を還流し、酸素を供給し終えた静脈血は上大静脈と下大静脈を通って右心房に還流してきます。この血液は三尖弁を経て右心室に入り肺動脈に駆出され、肺で酸素化された後に左心房に還流します。この酸素化された血液は僧帽弁を経て左心室に入り大動脈に駆出されます

 

心室中隔欠損症(VSD)

心室中隔欠損症は先天性心疾患の中でも最も頻度の高いものの1つです。左心室と右心室の間にある心室中隔が一部欠損し、左心室の血液が右心室と肺動脈に短絡するために、呼吸不全や心不全をきたす疾患です。生後間もない時期に強い心不全や肺高血圧症を呈する重症例では早期に手術を行います。欠損口の場所によっては、自然に閉鎖する場合もあります。欠損口が小さければほとんど症状がない場合も少なくありませんが、大きな心雑音がすること、感染性心内膜炎の危険があることから、最近では積極的に手術で閉鎖する場合が多くなっています。また欠損部の位置により、大動脈弁の変形をきたすことがあり、短絡量が多くなくても手術を行うこともあります。

 

心房中隔欠損症(ASD)

心房中隔欠損症は心房中隔が一部欠損するために、左心房の血液が右心房右心室肺循環に短絡する疾患です。通常は無症状で、学校検診で心電図異常を指摘されてはじめてわかる場合も少なくありません。加齢とともに、右心系の拡大に伴う不整脈や心不全が出現してきます。肺高血圧症を合併することはまれです。カテーテルを用いて特殊な器具で欠損部を閉鎖する技術も開発されていますが、当院では人工心肺装置を用いた外科的閉鎖手術を行っています。特に最近ではMICS(低侵襲心臓手術)が行われており、輸血を行わず、小さく目立たない手術創(6~7cm以下)で手術することが可能になっています。

実際の手術創(心房中隔欠損症術後:6歳) s

【実際の手術創(心房中隔欠損症術後(胸骨部分切開):6歳)】

 

ファロー四徴症(TOF)

ファロー四徴症は心室中隔欠損症、肺動脈狭窄、大動脈右室騎乗、右室肥大を四徴とする疾患です。左右心室間で動脈血と静脈血が混合するためチアノーゼ(低酸素血症)を呈します。強い肺動脈狭窄のため肺で酸素化される血液が極端に減少すると無酸素発作を起こし生命に危険が及ぶ場合もあります。生後間もない症例や肺動脈の発育が悪い症例では、チアノーゼの程度を軽くし、無酸素発作を予防するため、カテーテル治療(経皮的肺動脈形成術)や外科手術(体肺短絡術)を行うこともあります。体肺短絡術は鎖骨下動脈と肺動脈の間にバイパス人工血管を縫い付け、肺血流を増加させる手術です(根治手術ではなく姑息手術です)。根治手術では心室中隔欠損閉鎖、肺動脈狭窄解除を行います。最近では乳幼児期から根治手術を行うことも可能となっています。

 

動脈管開存症(PDA)

動脈管は母親の胎内にいるときは誰にでもある大動脈と肺動脈を結ぶ管ですが、通常は出生とともに閉じるものです。何らかの原因によりこの管が開いたままになったのが動脈管開存症です。動脈管を介して大動脈から肺動脈に血液が短絡し、心不全、肺高血圧症の原因となります。動脈管が大きければ乳幼児期に緊急手術を行うこともあります。小さければ症状が出ることはほとんどありませんが、感染性心内膜炎や動脈管が動脈瘤化する危険があります。早産児であれば、薬物療法が有効なことがありますが、成熟児の場合には、外科的に動脈管結紮術を行います。乳児期後半からは、カテーテル法を用いて動脈管にコイルを詰める経皮的コイル塞栓術を行います。動脈管の径が太い場合には動脈管を結紮する外科手術を行います。

 

房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)(AVSD、CAVC、ECD)

房室中隔欠損症は心室中隔欠損、心房中隔欠損、心臓房室弁の形成異常を伴う疾患です。房室弁の形態によって完全型と伴わない不完全型に分類されます。完全型では、しばしば共通房室弁を介する房室弁逆流が存在する。また、肺高血圧症と心不全を発症し、乳児期に根治手術が行われます。症例によっては肺動脈絞扼術を行うこともあります。不完全型では、弁逆流がなければ心房中隔欠損症に似た経過をとります。不完全型の房室弁は左右2つに分かれていますが、それぞれに亀裂があり弁逆流の原因となります。

 

完全大血管転位症(TGA)

本来、大動脈は左心室から、肺動脈は右心室から起始しますが、完全大血管転位症では大動脈と肺動脈が転位し、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から起始します。動脈管開存や心房中隔欠損症、心室中隔欠損症の存在が生存の条件になります。Ⅰ型は心室中隔欠損がないもの、Ⅱ型は心室中隔欠損があるもの、Ⅲ型は心室中隔欠損と肺動脈狭窄があるもの、と分類します。

Ⅰ型では、生まれてまもなく動脈管開存が閉じるため強いチアノーゼが見られることが多く、動脈管を開かせるプロスタグランディン製剤が必要になります。同時にカテーテル法を用いてバルーンにより心房中隔欠損を開大させる治療(心房中隔裂開術BAS)が行われます。これらの内科的治療を行った後、ほとんどの症例で生後1週間前後の新生児期に根治手術であるJatene手術を行います。

Ⅱ型では心室中隔欠損症があるためプロステグランディン製剤投与やBASは必要ないことが多いです。心不全やチアノーゼが強い場合には生後2~4週でJatene手術を行います。症例によっては肺血流を減らすため肺動脈絞扼手術をすることもあります。 Ⅲ型では乳児期に体肺短絡術を行い、1歳以降にRastelli手術が行われます。

 

両大血管右室起始症(DORV)

両大血管右室起始症は解剖学的右心室から大動脈、肺動脈の両大血管が起始する疾患の総称です。左右心室間の短絡のため肺血流が増加し心不全と肺高血圧症を呈する場合と、肺動脈狭窄を合併しチアノーゼを呈する場合の2つに大別されます。肺血流が多い場合は肺動脈絞扼術を行い、少ない場合は体肺短絡術を行います。根治手術の方法は病型により異なります。

 

総肺静脈還流異常症(TAPVC)

本来、左心房に還流すべき肺静脈が体静脈路に還流する疾患です。心房中隔欠損や動脈管開存が体静脈血と肺静脈血が混合する経路として必要です。通常、チアノーゼ、肺血流増加と肺うっ血に伴う心不全、呼吸不全を呈し、出生直後から重篤な病態となります。肺静脈が還流する場所によって、上心臓型(上大静脈に還流)、心臓型(右房、冠状静脈洞に還流)、下心臓型(門脈、下大静脈に還流)の3つの病型に分類されます。ほとんどが新生児期に緊急手術の対象になります。手術は左右の肺静脈が集まる共通肺静脈と左房を吻合します。肺静脈還流部に狭窄がある症例は手術の危険性が高くなります。

 

大動脈縮窄・離断症(CoA、IAA)

心大動脈縮窄は大動脈弓の一部に狭窄がある疾患です。大動脈離断症は大動脈弓の一部が欠損し離断する疾患です。いずれも他に心臓病のない単純型と心室中隔欠損症などの心内奇形を伴う複合型に分類できます。単純型では乳児期以降に発見されることも少なくありません。複合型は動脈管開存を伴い新生児、乳児早期に発症します。新生児発症例では、動脈管を開いて下半身血流を維持するためにプロスタグランディン製剤を使用し、外科的に大動脈再建を行います。再建方法としては直接吻合する方法、鎖骨下動脈を用いて大動脈の狭い部分を広げる方法などがあります。

 

フォンタン手術

左右心室の内どちらかが十分な大きさがない場合、もしくは最初から一つしかない単心室の場合は、解剖学的に二つの部屋に分けて修復するのは困難です。この場合は、心室を二つに分けるのではく、その心室を一つの心腔と考え、全身へ血液を送り出すために使います。この場合、全身から心臓に戻ってくる静脈を、心臓から切り離し、肺動脈に直接つなぎ、静脈血が肺へ直接流れるようにします。心臓には肺からの動脈血だけが戻ってきます。これで、静脈血と動脈血が心臓の中で混ざらず、チアノーゼが起こりません。これを、一般的にフォンタン手術と呼びます。またフォンタン手術の準備手術として、上半身の血液だけを肺へ直接戻す手術を両方向性グレン術と呼びます。

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