土谷総合病院

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診療科・各部門

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くすりの窓

蝉の鳴く季節がやってまいりました。

今回のテーマは 吸入薬 についてです。

 

2022年7月

吸入薬とは?

吸入薬とは薬を霧状に噴出させて、口から吸い込み気管支や肺に直接作用させる薬のことを指します。飲み薬に比べて少量で早く効果が得られ、副作用も少ないのが特徴です。

吸入薬が用いられる病気には主に気管支喘息慢性閉塞性肺疾患(COPD)があります。飲み薬の治療薬もありますが、吸入薬はこれらの病気の治療の第一選択薬として位置づけられています。

しかし、吸入薬は手技が正しく行われないと、期待される効果が十分に得られないため、患者さん自身に正しい手技を覚えていただく必要があります。そのため、吸入薬を開始する場合は薬剤師からの正しい手技の指導を受けることをおすすめします

それぞれの吸入薬の手技について触れると、内容が膨大になってしまうので、ここでは吸入薬の主な種類、それぞれのデバイスの特徴について触れていきたいと思います。手技については付属の取り扱い説明書を見ていただき、不明な点は薬剤師にご相談ください。

気管支喘息、COPDとは?

まずは気管支喘息とCOPDという病気について詳しくみていきましょう。

気管支喘息とは主にアレルギー物質が原因で、気道が炎症を起こし狭くなる病気です。(非アレルギー性で起こることもあります:ウイルス感染、天候、薬剤など)慢性的に気道が狭くなっているところに、急激な刺激を受けるとさらに気道は狭くなります。これを急性発作といい、呼吸の状態は非常に悪くなります。
主な症状は「息切れ」・「咳」・「喘鳴(呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューなどの音がすること)」などです。夜間や早朝に症状が悪化することが多く、季節によっても症状が悪化することが特徴です。

COPDとは以前までは「慢性気管支炎」や「肺気腫」と呼ばれていた病気です。主にタバコの煙などの有害物質が原因で、肺や気道に炎症を起こし、肺の細胞が損傷したり気道が狭くなることにより、酸素不足を起こして息切れを起こす病気です。主な症状は「息切れ」・「長く続く咳」・「痰が多い」などです。
重症でなければ安静時は症状が出にくく、運動すると症状が起きやすいのが特徴です。COPDの原因の90%以上が喫煙によるものだといわれています。

それぞれの特徴を以下の表にまとめてみました。

気管支喘息とCOPDの特徴

吸入薬の種類

上の表にも少し出てきましたが、吸入薬の種類は大きく分けて以下の5つがあります。

① 吸入ステロイド薬(ICS)

気管支喘息の第一治療薬です。主に喘息発作を予防する目的で定期的に使用されるお薬です。気道の炎症や過敏性を抑え、気道が肥厚し狭くなるのを防ぎます。ステロイドは副作用が気になる薬ですが、吸入のためほとんど副作用は起こることはありません

② 長時間作用性β2刺激薬(LABA)

主に喘息発作を予防したり、COPDの症状を改善したりする目的で定期的に使用されるお薬です。気管支の平滑筋という筋肉を弛緩させて、気道を広げることで呼吸を楽にします。効果が現れるのに時間がかかるため、喘息発作が起きた時に吸入してもあまり効果がありません

③ 短時間作用性β2刺激薬(SABA)

気管支喘息の急性発作時やCOPDの呼吸悪化時に使用されるお薬です。上記のLABAよりも速やかに効果が現れるのが特徴ですが、効果は持続しないため、定期的に使用するお薬としてではなく、頓用で使用されます

④ 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)

COPDの第一治療薬です。主にCOPDの症状を改善する目的で定期的に使用されるお薬です。副交感神経を遮断することにより気管支が狭くなるのを防ぎ、気道を広げることで呼吸を楽にします。「前立腺肥大症などの排尿困難」「閉塞隅角緑内障」の患者さんは症状が悪化することがあるので事前にご相談ください。

⑤ 短時間作用性抗コリン薬(SAMA)

SABAと同じく、気管支喘息の急性発作時やCOPDの呼吸悪化時に頓用で使うお薬です。ただ、広く用いられているのはSABAの方であり、当院にも採用はされておりません。

また、吸入薬には薬の成分が1種類のものもあれば、1つのデバイスに複数の薬の成分が含まれているものもあります。1つのデバイスに複数の薬の成分が含まれている吸入薬を使うことでデバイスの数を減らし、吸入回数の手間を少なくすることが出来ます。

デバイスの違い

吸入薬は、デバイスという器具の種類が薬剤ごとにそれぞれ異なります。現在、デバイスは大きく分けて以下の3つがあります。

① 加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)

ボンベを押すことで、吸入器から霧状の薬剤を噴霧させて吸い込むタイプの吸入器です。吸う力が低下していても使用することができます(高齢者、小児、発作時)
吸入する時に、薬の噴射と薬を吸い込むタイミングを合わせる必要があります(同調)。同調が困難な方についてはスペーサーという吸入補助器具を用いることにより、確実に吸入することが可能です。

また、高齢の患者さんなどでは指の力が不十分な場合があります。その場合は、メーカーが提供している補助器具を使うと、弱い力でも楽にボンベを押すことができるようになります。必要と感じる場合は薬局で相談してみましょう。

pMDIにはアルコールが含まれているものもあるため、アルコール過敏症の方はご相談ください。当院採用薬でアルコールが含まれているのはフルティフォームエアゾールメプチンエアーです。

② ソフトミスト吸入器(SMI)

ゆっくりと噴霧される霧状の吸入液を吸い込むタイプの吸入器です。pMDIと同じミストタイプのため、特徴はよく似ています。
新品を開封する際に、薬剤のセットが必要であり、セットにはある程度の力が必要になります。セット後は3カ月使用可能なので、セットが難しい場合は処方時に薬剤師にセットしてもらいましょう。

③ドライパウダー製剤定量吸入器(DPI)

粉末の薬剤を、自分で吸い込むタイプの吸入器です。同調が不要であり、自分のペースで吸入が可能です
吸入には一定以上の吸い込む力と速度が必要なため、吸う力が弱い方にはあまり適していません
タービュヘイラー、エリプタ、ディスカスなど様々な形の製剤があります。

それぞれの特徴を以下の表にまとめてみました。

デバイスの特徴

スペーサーについて

スペーサーとは、pMDIの同調が難しい患者さん(小児や高齢者)が確実に吸入を行うための補助器具です。マスクタイプとマウスピースタイプがあります。

スペーサーを用いることで、確実に吸入を行うことができるだけでなく、声枯れ、口内炎、口腔内のカビ発生などの副作用の発生を軽減することができます。

スペーサーの形状 マスクタイプとマウスピースタイプ

現在当院で採用されている吸入薬

吸入薬 pMDI 吸入薬 SMI 吸入薬 DPI

吸入薬の注意点

① 吸入後は必ずうがいをするようにしましょう

特にステロイド薬が含まれている吸入薬については、口の中やのどに薬剤が残ってしまうと、声が枯れる、口内炎ができる、口腔内カンジダ症(口の中に白いカビ状のできものができる)などの副作用を引き起こす原因となることがあります。
そのため、吸入後は必ずうがいを行い、口の中やのどに残っている薬剤をきれいにしましょう。

② 医師の指示通り、正しい手技で吸入しましょう

必ず医師の指示通りの使い方で吸入を行いましょう。
ICS、LABAやLAMAのような定期管理薬を発作の時に使用したり、指示された回数以上に吸入を行ってしまうと、正しい効果が得られないばかりか、副作用のリスクが高まる危険性があります。
また、手技が正しく行われていないと十分な効果が期待できないため、手技に不安がある場合は早めに医師や薬剤師に相談しましょう。

③ 自己中断しないようにしましょう

調子が悪い時は吸入薬を継続して使用できていても、調子が良い期間が続くと自己判断で治療を中断してしまうという患者さんも多くいらっしゃいます。
しかし、吸入薬治療は長期管理でしっかりと継続することが大切です。自己判断で治療を中止していると、突然発作が起こり、急激に症状が悪化するということもあります。調子が良くなっても、自己判断で治療を中断せずに医師の指示通り継続しましょう。

いかがだったでしょうか?

ICS、LABAやLAMAなど難しい言葉も出てきましたが、詰まるところは医師の指示通りに吸入薬を継続することが治療をする上で最も重要です
また、吸入薬は正しい手技で行わないと、期待される効果が十分に得られないので手技が不安な場合はすぐに薬剤師に相談するようにしましょう。