土谷総合病院

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診療科・各部門

Introduction of Department

麻酔科

麻酔の説明

麻酔方法は大きく分けて、全身麻酔と局所麻酔に分類されます。このうち、局所麻酔は手術行う部位に直接局所麻酔薬を注入する浸潤麻酔と、手術を行う領域の支配神経を麻酔する区域麻酔に分類されます。首から下の痛みは知覚神経を伝わり脊髄神経を通って脳の痛み中枢へと伝達されます。脳に作用して麻酔効果を発揮するのが全身麻酔であり、脳まで伝わる経路のどこかで麻酔をするのが局所麻酔です。麻酔科では、全身麻酔と区域麻酔の一部を担当しています。

1.全身麻酔

全身麻酔の基本は、鎮痛(痛みを取る)、鎮静(意識を取る)、不動化(手術に有害な体の動きを抑える)の3つです。鎮痛薬、鎮静薬、筋弛緩薬をバランス良く組み合わせて、ひとりひとりの患者さんに最適な麻酔状態が得られる様に調整します。意識がなくなって間もなく呼吸は止まりますので人工呼吸を行います。口から気管の中まで人工呼吸用の特別なチューブを挿入しますが、麻酔状態で行いますので全く苦痛はありません。心臓は拍動を続けますが、麻酔薬の作用により血圧が下がったり心臓の働きが弱まったりすることがあります。血圧を上げる薬や心臓の動きを助ける薬を使って適切な血圧が保てるように調整します。最近の麻酔薬は速効性・短時間作用性の薬が主流で、一定の速度で投与することにより安定した麻酔深度が得られます。手術が終わって麻酔薬の投与を終了すれば、5~10分で目が覚めて呼吸が回復してきます。手術終了時には、手術後用の鎮痛薬を点滴して麻酔を終了します。

2.区域麻酔

1)脊髄クモ膜下麻酔(せきずいくもまくかますい)*いわゆる下半身麻酔

脊髄は脳から背骨で囲まれた脊柱管という孔の中を降りてきて、首から下のあらゆる場所へ神経を出しています。脊髄は硬膜(こうまく)という膜に覆われておりその中は脊髄液で満たされています。腰の背骨と背骨の間から非常に細い針(直径0.4mm程度、点滴や採血に使う針の半分程度の太さ)を刺して脊髄液の中に2ml程度の局所麻酔を注入します。これにより、腹部以下の神経が麻酔状態となり痛みを感じることなく手術を受けることができます。主に、下肢の手術や帝王切開術などの下腹部の手術に使用します。

2)硬膜外麻酔(こうまくがいますい)

脊椎麻酔と同じように背中から針を刺しますが、針先を硬膜の手前まで進めて非常に細い管(直径1mm程度)を留置します。この管を通して局所麻酔薬を注入し、穿刺部位近くの神経を麻酔します。脊椎麻酔では局所麻酔を最初の1回だけ注入するため数時間で効果が切れてきますが、硬膜外麻酔は繰り返し局所麻酔を注入することにより長時間の麻酔効果を得ることが可能です。手術後は、自動注入ポンプを接続して局所麻酔薬を持続的に注入するようにしています。このポンプには、患者さんが痛いと思った時にご自身で局所麻酔の追加注入ができるボタンが備わっています。この様な鎮痛方法を硬膜外自己調節鎮痛法(PCEA:Patient Controlled Epidural Analgesia)と呼んでおり現在広く普及しています。主に、全身麻酔と組み合わせて腹部全般の手術や帝王切開術に使用します。

3)伝達麻酔(でんたつますい)

脊髄より別かれて末梢へ向かう個別の神経を麻酔するのが伝達麻酔です。目的とする神経にピンポイントで局所麻酔薬を注入して手術部位の麻酔を行います。近年は超音波装置の進歩により個別の神経が判別可能となり、血管穿刺等の合併症を起こすこと無く安全に手技が行えるようになり広く普及している麻酔方法です。主に、整形外科の上肢の手術や侵襲の少ない腹部の手術等に使用しています。

図:腕神経叢ブロック(正中神経)

右側から神経ブロック針が挿入され、腋窩動脈手前の正中神経周囲にドーナツ状に局所麻酔薬が注入されているのが見えます。超音波を利用することにより、血管を避けて確実に神経を麻酔することが可能です。

腕神経叢ブロック(正中神経)
3.安全のためのモニター

1)一般的なモニター

当院では麻酔を安全に行うために最新の生体モニターを設置しております。基本は、心電図、血圧計、動脈血酸素濃度計、呼吸モニターですが、必要に応じて上肢や下肢の動脈に点滴針を留置して直接動脈圧を測定したり、頚部の静脈からカテーテルを挿入して心機能をモニターする場合もあります。

2)脳波モニター

全身麻酔時には額に脳波モニターを装着して手術中の麻酔深度を測定しています。患者さんによって麻酔薬の必要量は異なります。脳波データを参考に、ひとりひとりの患者さんに適した麻酔深度に保てるように麻酔薬を調整していますので、安定した麻酔管理が行えます。

3)脳内酸素飽和度モニター

心臓血管外科で行われる開心術では、心臓を止めて人工心肺装置を装着しますが、脳血流が低下する危険性をはらんでいます。万が一の脳血流低下を早期に発見するためには脳内の酸素濃度を連続測定していることがとても重要です。その有用性が認められ、2018年より保険適応となりましたが、当院では2001年より脳内酸素飽和度測定装置を導入して患者さんの脳保護に努めてきました。本装置のお陰で重篤な合併症を免れた症例も経験しています。

4)経食道心エコー

心臓大血管手術において経食道心エコーは、心臓の機能評価・術前診断の最終確認・手術直後の評価などに用いられる有用な診断法です。特に弁形成や弁置換手術に於いては、弁の機能は心エコーでしか評価できないために必須の診断法と言えます。当院では、1997年より新生児から成人まで積極的に使用しており、手術中の評価を執刀医にフィードバックすることで手術成績の向上に努めてきました。時には、手術前に診断されていない新たな病変が見つかり、急遽術式を追加・変更する場合もあります。これらは、すべて患者さんにプラスとなる措置で有り、モニターしていなければ手術後に発見されて再手術となる可能性もあります。

経食道心エコーは胃カメラの様なプローベの先に小さな超音波装置が付いています。全身麻酔後に口から食道へ挿入しますので何の苦痛もありません。食道は心臓の背中側を通って胃まで到達しています。食道から超音波をあてると手術の邪魔をすることなく心臓の観察が容易に行えます。

当院では、日本周術期経食道心エコー試験(JB-POT)の合格者が担当しています。この資格は医学界では珍しく経歴に応じて5~10年毎の再試験が義務づけられている厳しいものです。それだけ、最新の知識と技術が要求される分野だと言えます。

図の説明:心臓手術中の経食道心エコー(重度の僧帽弁逆流に対する僧帽弁形成術)
図1)麻酔導入後(手術開始前)の僧帽弁逆流(緑の矢印)
図2)初回形成後に僧帽弁の逆流が残存していることが確認されました。
図3)再度、追加の形成を試みて逆流の無い完璧な手術を行うことができました。
手術中の経食道心エコーは心臓手術の手術成績向上に寄与しています。